
アントファガスタの市場の中の食堂(日本の大衆食堂、定食屋のような感じ)のウエイトレスのお嬢さんである。名前は聞き忘れた。
この食堂は値段も安く、気どらずに入りやすい店だったので、よく行った。
仕事帰りの疲れたおじさん、おばさん達がテレビを観ながら食事をしているような店である。
いつも「Menu de hoy」(メヌー・デ・オイ)を注文した。「今日のメニュー」の意味である。
何種類かあるのだが、今日のメニューと言いながら、実は毎日殆ど変わらないようだ。
魚の唐揚げか煮込んだ鶏を注文した。魚介のスープとサラダや米、じゃがいもなどの付け合わせがついて、およそ三百円位。十分満足できる。
酒はワイン、紙パックに入ったワインを、大きなコップ(ワイングラスではない)に並々とあふれるまでついで百五十円。三杯飲むと、翌日二日酔いになるのでは、と心配になる。
つまみはじゃがいもの唐揚げ。ここの料理は塩辛いので「塩をふらずに」と頼むのだ。
試しに「パパス フリッタス シン サルー」とでたらめスペイン語で注文するとこのお嬢さんは理解してくれ、辛くないじゃがいもを持って来てくれた。
その次に行った時は「パパス フリッタス」と注文すると大きな声で「シン サルー」と答えてくれた。
英語が全く通じない所なのだ。注文は電子辞書と身振り、手振りである。それでもこのウエイトレスのお嬢さんは一生懸命聞いてくれ、一生懸命説明してくれる。
チリの人達は皆、人懐っこい。
町を歩いているだけでも何人もの人達が話しかけてくる。その度に僕は「スペイン語は話せません。ごめんなさい」と答えるしか無い。
話しかけてくれた人達は、笑顔の陰に淋しげな表情をのぞかせて去って行く。
もう少し会話ができたら、この国は僕にとってもっともっと楽しい国になるのだが。